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「我が家のヒミツ」 奥田英朗 [本]

前の2作との連作らしい。多分読んだけれど、随分前で。。。

短編集。ヒミツがあんまり秘密ではないという感想もあるようですが、本当の意味での秘密ではなく、家族の親密さ、内緒という意味合いもあるのかなと思いました。そのためカタカナが使われているのかも。
最近目が疲れるし、重たい内容の本が段々つらくなってきたこともあり、調度いい感じの小説でした。苦労せずに楽しみながら読了。

奥田さんのこの小説の登場人物は誰もが悪い人ではなく、市井のちょっと良い人ばかり。心のひだや、感情の機微とでもいうものを、どうしてこんなに上手に描けるのか、しかも男女の区別なく。と不思議。読み終わって、家族っていいなあと思うとともに、独り者の私はちょっと寂しくなりました。でも年老いた両親やそれぞれ独立した兄弟とはそんなに仲良くもないしなあと現実に戻ったのでした。

6つのお話のどれもが、何でもない日常を描いているのに、くすりと笑えてほのぼの。

虫歯とピアニスト。子供が出来ないことで色々言ってくる義母にびしっと言ってくれる意外と頼もしい夫。最後のピアニストの再訪のところがクライマックス。

正雄の秋はサラリーマンには身にしみる話で、なんだかな~と思うとともに、わかるわかるとも。最後がすっきりしていい感じ。誰にでも人生がある。ですね。お葬式の電話がクライマックスで起承転結の転ですね。

アンナの十二月は少女たちが主人公。親友たちのアドバイスがナイス。父親に会いに行くところがクライマックスで、まさに小説のような展開。育ての親だなと私も思います。

妊婦と隣人の主人公の主婦には笑いました。エスカレートしていく様が目に浮かびます。追っかけていくところがクライマックス。

手紙に乗せては家族のお話。お手紙を下さる部長がこの短編集の中で一番印象に残った登場人物です。思いやり、大切です。

妻と選挙。自然体の主人公が余りにものびのびで、マイクを持ってしゃべりだすところが、クライマックス。

それぞれのストーリーに小さなクライマックスが盛り込まれています。

男性の心情描写だけではなく女性の心のつぶやきも全然違和感ないのがすごいなあと思っていたけれど、今回はアンナの12月で、少女たちの会話も生でストレートな感じで改めて感心。すごい作家さんですね。

今回ちょっと余りにも皆が良い人で幸せな家族ばっかりだったので、次はむちゃくちゃやってしまう主人公の家族仲良しだけでは終わらない短編集も読んでみたいです。

お勧めです。


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小保方晴子「あの日」 [本]

読んじゃいました。仕事帰りに寄った大きな書店では見当たらず、近所の小さな本屋で最後の1冊でした。大きな声で書名を言われて、やっぱりちょっと恥ずかしかった。。

一体あの大騒ぎは何だったのか、小保方さん以外に責任はなかったのかとの疑問があったので、読んでみたかったのです。

検索してみると、この手記を出したことで、こんな本書かずに早稲田の論文の方を書けばよかったのでは、人が死んでるのになど、また大批判バッシングがネット上ではあるようです。

一言で感想をまとめると読み物として私は面白かったです。研究や実験の過程についても丁寧にわかりやすく書いてあり、各章のタイトルやコピー、仕上げは出版社でしょうが、ご本人が書いたのだろうと思われます。

暴露本、若山教授を悪者にした言い訳本、との評があるようですが、そうでもない感じがします。若山さん以外に理研の方、マスコミ等、複数名が実名で登場しますが、おそらく既に報道やネットで名前が挙がっていた方々なので、実名扱いとの最終判断をしたのではないでしょうか。

小保方さん側の陳述なので全てが事実かどうかはわかりませんが、ある程度事情は推察できる内容でした。会話等かなり詳細かつ具体的に書かれている箇所も多く、おそらくそれらは事実かなと思われます。

若山さんについては普通に報道を見ていても、この人なんで翻ったの?と思えましたが、そのままだっただけのようです。大宅賞を取った毎日新聞記者やNHKの報道の情報源は理研内のリーク者と若山さんからだったようです。若山さんは既に理研を離れていたため、小保方さん他とは違って自由に発言することができ、保身を図れたという事は納得がいきます。NHK、毎日は元々こういう科学方面や医療過誤等々の路線に力を入れている、反対の立場から言えば、またか、しつこいというのは、聞いたことがあります。

私は科学、この研究についてもさっぱりわかりませんが、おそらくSTAP細胞の定義に各々ずれはあって、STAP細胞はないかも知れないが、あることを否定も出来ないという状況に変わりはないのかなと考えます。捏造の動機がないので、単に研究室内部の管理のずさんさが原因で、それを追求されたくないので、若山さんが早めに保身で幕引きしたような印象を受けました。

騒ぎがここまで大きくなったのは、小保方さんの所属が理研で正式に採用されるまではハーバードで理研でも若山さんの下にいたときの立場がややこしかったこと、論文の権利関係もハーバードが入っていたことなどから、事情が複雑化したのかと推察します。結局、最初は小保方さんの未熟さ、杜撰さ、周りの指導・レビューの足りなさから起こって、その時点で火消しできればよかったのに、色んな条件が重なって問題がより大きくなっていき、それに報道や世論が拍車をかけて影響したという事のように思えます。

ところで、私の周りの理系の方々の意見は、「あんな杜撰な論文のコピペ図表改ざんは絶対やっては駄目と大学で最初に習ったので信じられない。でもこの本読んでみたい」「論文のコピペはやっぱりあるから。。。(これは複数名です)」「こんな本出さずに実証すればよいのに」等々です。う~ん。

図表に関しては、正直故意の改ざん等しなくても、間違いが起こることを100%は避けられないと私自身は思っています。身近でも起こっています。何十という図表があって、少しのデータの差で僅かに違うものを論文の中に取り込んで行く時に、ファイル名の誤認や入れ間違いで起こりえます。改ざんとまで行かなくても元データの精度が低かったり、ネット投稿の際の基準で劣化が起こる等あれば、濃くしたりはあり得るかと思います。

実験ノートについては全てが公開されている訳ではないし、今あるものだけでは批判は出来ないでしょう。全てをオープンにしたら発明の意味はありませんので。

また、余談ですが、特許については大企業でしたらものすごい数の出願をしていますし、そのうち製品化されるものは少ないようです。特許出願も論文提出も予算上期限があることは仕方がないことで、期限に案件が集中し、それが間違いを招く要因のひとつにはなるでしょうか。因みに本発明の特許出願は一部公開されているので、国際特許庁WIPOもしくは欧州特許庁EPOのESPASで名前検索したら簡単に見ることができます。バカンティ氏側主導で主要国に出願されており、まだ放棄にはなっていないようです。理研はおそらく権利譲渡したようですが、少なくとも当初出願時に出願人になっているので、やはり可能性は否定していなかったということでしょうね。

次に理研での採用方法も問題視されているようですが、普通の企業であっても紹介・推薦がありますし、その方がよりよい人を採れる場合もあるとはいえます。正式採用の前に既に理研で働いていたのであれば、一概に悪いとも何とも言えないなあと思います。それと、理研については一般企業ではないので、私達が想像するよりはるかに勤務条件も厳しいようです。ただ、女性でも能力があれば積極的に採用して活躍の機会が与えられるのは間違いないようです。

小保方さん個人については、やはり優秀なのは間違いはないでしょうし、何とか立ち直ればよいのになあと単純に思います。英語の論文何十本読むだけでも無理ですが、ハーバードで研究をして評価されるというのはとんでもないことですし、並大抵の努力ではないでしょう。

本書については、こういう本人の陳述ではなく、中立の立場の人が聞き取る形での対談形式にして、メール等の証拠も掲載すればよかったのにという声もあるようです。まあそうできれば一番良かったのでしょうけど。

本を出さずにSTAP作れといわれても、この状況で施設・資金を提供してくれる企業・研究所が出てこないでしょうから、研究を続ける、本当にSTAP細胞を作るのも難しいのか。また世界のどこかで似たような細胞が発見されてニュースになる日はやってくるのでしょうか。。

スケープゴートのようにいまだに続くバッシング。

真実はあなた方を自由にする。との聖書、ラテン語の格言がありますが、この本を書いたことで、少しでも心が軽く自由になれて、次に進めるきっかけになることを祈るばかりです。


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となりのセレブたち 篠田節子 [本]

今年も残り少なくなりましたが、大掃除もしておりません。。。
本も全然読まなくなってしまいましたが、久しぶりに短編集を読みました。
篠田節子さんらしい想定内の面白さ。現代のような近未来のような、世紀末的な社会を舞台にしたシニカルで時に少し怖いお話が集まっています。

1つ目のトマトマジックはドラッグをモチーフにした作品。知らずに食べたセレブな主婦たちの心の奥底が見えてきます。人間描写が面白いお話です。タイトルは一番新しいこの作品からとったのかなと思います。他の主人公達はセレブとは関係ない気がします。

蒼猫のいる家は他にもコメントされていた方が居ましたが、小池真理子さんの小説に出てきそうな女性が主人公でちょっと神秘的な印象です。

ヒーラーは最近ニュースになっていた謎の海洋生物のサルパを連想させ、さすが。と思いました。余りに辛らつな描写にちょっと笑ってしまうぐらいです。視点を変えると似たようなことは今もあるのかなと思いました。

人格再編が心に一番ずしんと落ちてきました。老齢社会のこれからをテーマにしています。少ししか出てきませんが、主人公の家族の俗物として描かれているごく普通の主婦の感覚の描き方が巧いなと感じ、人間ってそういうものかなと思わせられました。

最後のクラウディアは犬の名前。これは少し他の長編を連想させました。蒼猫とこの作品の2編は少しカラーの違うストーリー。

タイトルが適切かの判断は難しいですが、バランス良く楽しませてくれる短編集でした。書かれた年代は1999年から2011年とバラバラ。ヒーラーも2003年の作品なのが驚きです。

どの作品も短いのでさらっと読めてくすりと笑えるところもあるのですが、面白いだけでは終わらないのが、篠田さんの凄さかなと思います。

年末年始はきくちいまさんの本と読みかけのままのしゃばけシリーズを読む予定。


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「日本史パロディ 塩を止められて困っています」 スエヒロ [本]

ネットで人気らしい、自称 テキスト系妄想メディアのワラパッパに掲載されていた日本史パロディをまとめた本です。

ネットで幾つか読んで面白かったので、図書館で予約しようと思ったら、大阪市の図書館にはデータがありませんでした。。。ネットでも品切れ。本屋で探すと歴史本のコーナーにはなく、パロディ本みたいな所に置かれておりました。

タイトルは歴史上の有名な逸話。武田信玄が塩止めされたときに、もしネットがあって知恵袋で相談したら??というパロディです。そういう戦国時代から江戸時代の日本史についてのパロディを1ページごとにまとめています。他には太閤検地のお知らせハガキ、とか小早川秀秋の退職メール、討ち入りや、関が原の戦い、信長のライン等々の面白ネタを掲載。幾つか別コラムもあって楽しいです。

本当の歴史好きには不評かも知れませんが、ほどほどの歴史好きの方や、それ以外の方には面白い本かと。退屈な日常にくすりと笑いを誘います。この本をきっかけに日本史のエピソードに興味をもつ入り口にもなるかも知れません。

それに、ネットと紙の書籍の関係性、位置づけを考えさせられる感じもする本です。


タグ:日本史

「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」 佐々涼子 [本]

年齢とともに目が疲れるのと、朝が早い生活をしていたので、読書から遠ざかっていましたが、インスタグラムで勧めておられた方がいて、読んでみました。
つい最近はネパールが気になりますが。。。これは東日本大震災についての本です。

震災後に様々なニュースが流れるなか、色んな物が東北で造られていることを知りましたが、雑誌の発行が紙不足で。。というのも聞いたような覚えがないでしょうか。その時は、本や雑誌は直接生活に影響するものではないし、たいしたことではないというような印象でしたが、この本を読んで、その裏でこんなに必死な人々の努力があったのだなと知りました。

日本製紙は日本の出版用紙の4割の製造を担っているとのこと。その主力工場が石巻工場で、この本はその復興までの道のりのドキュメンタリーです。震災被害額は私企業として東電の次だったということに驚きますが、そのほとんどがこの石巻工場の復興にかかったとのこと。被害はどれほどだったことでしょうか。

工場の復興とそれに携わった方々の努力、日々の生活が詳細に、バランスの取れた目線で綴られていて読みやすかったです。工場の中での出来事だけではなく、当時の東北の悲惨な状況が具体的に描かれていて、つらくなる箇所もありますが、同時にほっとするエピソードも盛り込まれています。それで、読んでいて落ち込む、暗くなるということもなく、最後まで読み通せました。

石巻工場の前身は元々昭和三陸大津波や恐慌から東北を復興させるための法律に基づいて設立された会社だったそうです。なんと因果なことでしょう。長く地元に根付いた石巻と共にある企業だということがわかります。

用紙については、自分が担当していた製品のカタログを作ったときに、サンプルを見たりすることはありましたが、今まであまり意識したことはありませんでした。たまにお洒落な和紙を利用した商品を見たりするといいなあと思うぐらいでしょうか。この本に出てくる工場の人々は皆紙造りに誇りをもったプロという感じです。世の中には色んなものを造っているプロがいるのだなあと感心しました。

震災後、機械の釜に入った紙の原料のチップと薬品の液体が、固まって取れなかったという話が出てきます。つい、スムージーをした後に洗わなくてこびりついたミキサーを思い出してしまいましたが、一日作業してたった数センチしか進まない作業をやり続けたという根気強さに頭が下がります。

宣言通りに、たった半年で最初の機械を稼動させる場面がクライマックスですが、その製造に要する時間についての記載に驚きました。パルプを流して紙が出来上がるまでを通紙、紙をつなぐというそうです。この本のタイトルにもなっています。すべてがオートメーションなわけではなく、途中の工程で人の手も入っての作業。通常早くて1時間遅くて数時間かかるのが再操業の際には28分だったとのこと。けれど、そんなに時間差があると、どうやってスケジュールを立てるのだろうとびっくりしつつ、繊細な作業なのだなあと思います。

他にも中間製品が津波で流れて回収したエピソードも印象的でした。

人は希望がないと生きていけないし、底力というものもあるのだなあと強く心に訴える本でした。

因みに図書館で3ヶ月ほど前に予約して借りたのですが、次に全く同じ本を借りたのが後輩でした。。わかった理由は恥ずかしくて言えませんが。

お勧めです。


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宮部みゆき 「荒神」 [本]

最近年齢的にも目が疲れてしまうし、全然本を読んでいませんでした。久しぶりに一気に読了。タイトルはこうじん。と読ませるようです。

面白かったです。宮部さんは現代物と歴史物と両方書かれますが、こちらは綱吉の時代の東北が舞台の小説。山で恐ろしい怪物が現れて。。。というお話で、色んな要素がある小説でした。怪物を巡って隣通しの藩の争い、兄妹の人生。歴史小説、ホラー小説でありながら、詳しくは言えませんが、悲しいファンタジーでもあるような。人間のさが、暗い悪しき心の吹き溜まりのようなものを描くことが多い作者らしい小説だなと思いました。でも暗いばかりではなく、同時に、ふんわりとあたたかいもの、にまりとしてしまう面白いスパイスもたくさんあるので、決してどれも暗いお話ではないのがいいところです。

読み進むうちに、あれ?っと思い浮かんだのですが、前に読んだ短編「まぐる笛」と、山の怪物というモチーフについては似ています。けれど、もっとストーリーが広がり、より深くテーマが掘り下げられた感じです。

山に暮らす貧しい人々、農民、庄屋、様々な階級の武士。その奥方。使用人たち。今回は結構登場人物が多く、最初に説明もありました。新聞連載の小説だったというのが、何となくわかりました。 

実際に出てくる登場人物だけではなく、話の展開上だけ出てくる人物も多いのですが、巧くキャラクターが書き分けられています。忍び?っぽい、やじという武家の使用人や、たまたま事件に関わることになった流れ者?の宗栄、若い武士、小日向などについては、また新たに別の小説の登場人物として出てきてもおかしくないような感じがしました。それだけ盛りだくさんの感じです。
あと、主要人物ではなかったのですが、百足むかでというスパイの役回りが、なかなか意外な展開で、印象に残りました。

今、宮部さん原作の「ぼんくら」がドラマでやっており、配役もぴったりで、人間味あふれる良いドラマだなと思います。ぼんくらもそうですが、考えれば宮部さんの小説には、主人公の周りにキーパーソンとなる子供の登場人物がいることが多いですね。この小説でも出てくるのですが、その男の子が立ち直っていく過程の心理描写に、う~んと納得でした。

宮部ワールドはまだまだ広がる感じでしょうか。


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「陰謀論の正体!」田中 聡 [本]

他の方が感想をあげておられるのを拝見して、読んでみました。難しい学術書ではなく、意外と気楽に読めました。

地震兵器による人工地震説や、9.11テロは自作自演だなどという、有名な陰謀論を取り上げて分析しているのかなあ。とちょっと期待していたのですが、そうではありませんでした。そういった個別の陰謀論については、少しずつ途中で紹介しながら、最初から最後まで、陰謀論とは何かということについて、良い意味で普通の常識人の感覚・観点から淡々と解説された本でした。結局、作者の立場は陰謀論を否定するのでもなく、肯定するのでもなく。ということです。

社会に不安が満ちてくると陰謀論が活躍しだすということは確かにその通りかも知れません。それに、ネット社会が拍車を掛けている。東日本大震災の後の日本はまさにその典型だったようですし、それは今も続いているのかも。

グローバル化して、巨大になり複雑になった現代社会では、自分の身近に起こったことでも、幾らその理由を調べようとしても、情報は溢れているのに、確実なものに行き着くことができない。。それが、陰謀論が出てくる理由の一つ。となると、どうも陰謀論が減ることはなさそうですね。

陰謀する側の団体としてしばしばあげられるらしい、ダン・ブラウンの小説にも出てきたイルミナティについてもちょこっと語られています。他にも、私は知らなくて、へ~、そんな陰謀論があったんだ。というものも。そう、ダン・ブラウンの小説も陰謀論を面白く膨らませて成功したものですね。

 9.11のテロについては、NY帰りの方が、自分の周りでは皆あれは陰謀だと言っているとまことしやかに語っていたのや、標的となった貿易センタービルの住所をWORDでタイプしてフォントをWINGDINGSに変換すると、恐ろしい絵になるという話を思い出します。(正しい住所ではない作られた話だったんですが、NYだけでも変換すると、マイクロソフトの陰謀かとも思います)

本書であげられていた陰謀論に絡む幾つかの事件の中で、関東大震災の後の虐殺の話が、恐ろしく印象に残りました。知りたくないことのような気がして、特に自分で調べることがなかったし、嫌なものにはふたをするように社会全体が語ることが少なく、そのため目にすることも少ないのかも知れません。作者がふれられていた本庄事件をWIKIPEDIAで検索しただけでも、情報の少なさにそれが現れているようです。最近の嫌韓のデモやヘイトスピーチの問題を思い起こさせます。陰謀論にはどうしても人種差別に関わるものも多いようです。

陰謀論は状況証拠ばかりで成り立っているので、完全に肯定は出来ない。けれど、確かなものではないからこそ、完全に否定も出来ない。かつて陰謀論が事実もしくは事実に近かったことも度々。なるほど!

秋の夜長の読書にいかがでしょうか。ちょっとだけ哲学的な気分になって、ふ~む。とうなりたくなります。


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「(株)貧困大国アメリカ」堤 未果 [本]

少し前に読んだ本。小説ではありませんが、久しぶりの読書。富裕層の住民たちが自分たちで運営しているサンディ・スプリングスというアメリカの町について興味をもったのがきっかけで手をのばしました。この町のことを含め、アメリカ社会の抱える様々な課題を取り上げたルポでした。前の2作は読んでいませんが、3部作の完結編とのことです。

作者は、アメリカの政治経済は99%の貧困層・一般市民よりも1%に過ぎない富裕層を向いているから、現政権・体制には反対という立場にあるようです。そのため、幾分偏った見方のところもあるかなという印象を受けました。弱者側からのみの目線で語られているようなところも多く、データや反証が十分ではない箇所もあるように思います。ただ、中には日本も直面している、もしくはこれから直面するであろう近い未来を見せられているように思える指摘もあり、考えさせられます。次から次へと、アメリカ現代社会が裏側で抱えるショッキングな課題が取り上げられていて、最後まで一気に読めました。

なかでも、農業、食の遺伝子操作、農薬の問題は、国境を越えて地球規模で広がるので、怖いという意識を改めてもちました。怖い理由の一番は、人体への影響を学術的にはっきりと証明することが難しいということです。いわば、自分で認識しないうちに影響があるかも知れないということが否定はできないので。加工食品は安価で手軽なので、私も疲れたときには結構利用します。けれど、この本に載っていた加工すれば加工するほど、中身はスカスカという言葉は強烈で、これからは、少し躊躇するかも知れません。以前の勤務先で扱っていた製品も説明の過程であげられており、一層複雑な思いがしました。

読むきっかけとなり、印象に残ったもう一つのテーマ、公共サービスの民営化については避けられない道だとは思います。けれど、どこで線引きするか、即ち何に重きをおくか、どこまで影響が広がるかについての判断は難しい。いわば街ごと民営化されたサンディ・スプリングスについてのまとめに、作者は、そこには公共という概念は存在しないと述べています。

タイトルからもわかる通り、作者がこの本を通して述べているのは、結局、現代社会のほぼ全ての局面には、国境を超えた大企業が何らかのかたちで関与し、決定権の行方を左右しているということです。それは、当たり前だと思うと同時に、ここまで来ているか、とも感じました。特に、米国立法評議会ALECの存在については気になります。

巨大企業は多様性の反対にあるのかはわかりませんが、自分で選ぼうとしても、選択肢が限られているということは、場合によれば怖いことかも知れません。身近なスーパーでも大きなグループ企業の傘下に入ると、知らないうちにそこの商品ばかりに入れ替わっていくことはあります。

読み終わり、ウォール街を占拠せよ。の運動の背景にいた人々の姿が少しは透けて見えてくるように思います。ただ、現代アメリカ社会のシステムが全面的に悪いというわけではないでしょうし、もちろん大企業の経営者や政治家全てが自分達の利益のみを考えているわけではないとも思います。そのあたりについては、本書について反論されているコラムも簡単に検索できますので、興味のある方はご覧になられてはと思います。

社会の成り立ちや価値観が大きく違う欧州がオバマのアメリカをどう評価しているかについても、知りたいなと思いました。

書かれていること全てを鵜呑みにすることはできませんが、十分読み応えはあり、冷めた目線ででも、手を伸ばす価値はあります。周りに流されるのではなく、まず自分で知ること、考えることのきっかけにするには、良い本かなと思いお勧めします。


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「帝国のベッドルーム」ブレット・イーストン・エリス [本]

1985年。バブルの時代。
当時大学生だった作者のデビュー作でべストセラーになった「レス・ザン・ゼロ」の25年後の続編です。虚無的な世代を指すゼロ・ジェネレーションという言葉があったように思うのですが、この本のタイトルから来たのか、先にあった言葉なのか、よくわかりません。
当時アメリカで、ちょっと新しい小説を書く作家たちが続いて出てきて、エリスを含め、ロスト・ジェネレーションと呼ばれていたようです。他にジェネレーションXという言葉も。

レス・ザン・ゼロは映画にもなり、劇場に観にいきました。ロスアンジェルスで暮らす裕福で退廃的な若者たちの刹那的な日常を描いた作品です。主人公のクレイの友達、ドラッグ中毒の友達ジュリアンを演じた若いロバート・ダウニー・Jr.の演技が印象的で、テーマに使われたバングルズのメロディもすぐに浮かびます。作者はこの映画に批判的なようですし、一見軽いB級映画の印象を受けますが、深い哀しみの中にいる若いクレイとその彼女のブレアの姿が切なく、記憶に残る映画です。

ただ、映画は覚えていても、25年も前なので、小説の前作は記憶の片隅に追いやられていました。読み始めて、まずジュリアンが生きていたことに驚き。

今は脚本家になり、ニューヨークからロスアンジェルスに帰還した主人公クレイは、恐らく40代後半の設定。クレイには作者の姿も反映されているようです。周りには、ジュリアンの他にも元彼女のブレア、何を職業にしているのかわからない怪しげなリップの25年後の姿も。

クレイと新たな登場人物の女優志望のレインとの関係を軸に、業界の周辺の人々に起こる謎の殺人・失踪事件を絡め、物語は一見現代のスリラーの様相を呈しています。けれど、描かれているのは、ドラッグ、セックス。前と同じく現代の雰囲気。気分。登場はしないのに、何度も意味深に語られる過去の女性。幽霊まで出てきます。

ただ、変わってしまったのは、クレイ自身です。延々と続く独り語りの現実と妄想の線引きが曖昧で、どこまでが実際に起こったことなのか、クレイの妄想なのか、読む進むうちに、判別が出来なくなっていきます。前作ではまっとうな人間として描かれていたと思ったのですが、25年経っての変容振りに、軽いショックを受けました。

謎が解けるわけではなく、謎が謎を呼び、何が解決するでもなく、の結末は何を意味するのでしょうか。ただ、変わらないのはブレアとクレイの関係なのかという気もします。

ただただクレイの胸の内が延々と語られるだけで、全く中身がないような、けれど、どんな解釈も出来そうな小説です。拝金主義、暴力、人種問題、極端な格差社会、資本主義の終焉等々、現代批判。

前作のキャストそのままでの映画化も一時期話題になっていたようです。映画化されたらやはり観てしまうと思います。25年後ではなく、その間も埋めて欲しいという思いも。
クレイは他の小説にもちらっと顔を出してはいましたが、主人公達はこれまでどんな人生を過ごしてきたのでしょうか。

25年前と現代。自分を振り返っても、あっという間のようで、大きく変わったのかよくわかりませんが、インターネットによる新しい社会が構築された時代だったとは思います。それに、今は小説を手にとって読む人がどれだけいるのだろうかとも思います。

小説を余り読まない方は苦労する作品かも知れませんが、不穏な空気を味わいたい方にはぴったりの小説です。


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「沈黙のひと」 小池真理子 [本]

もう2月ですね。

小池真理子さんの小説を読むのは久しぶり。こないだ石原さとみが主演でスペシャルドラマにもなっていた恋愛小説のイメージが強い作家さんです。けれど、この本は、過去の恋愛が出てきても恋愛小説ではない長編でした。吉川英治賞を受賞された作品です。

主人公の40代後半から50代位の女性編集者と、子供の頃に離婚によって別れた父親との関係、父親の人生、を綴った静かな小説です。タイトルは年老いた父親の病状が段々と進んでしまった状態を示しています。

ページの多くが父親の書簡で構成されていて、そこから過去の家族の歴史が少しずつ明かされます。
人生の終わりを迎えることを知った父親の様々な感情や思いを、残された手紙や日記で後から知る主人公。
作者のお父様がモデルになっているために、おそらく描写が一層真実味をおびていて、あふれ出る感情が胸に迫る箇所がいくつもありました。
この小説ではコミュニケーションはe-mailや電話ではなく、思いをこめた書簡です。

読み終わると、多分年齢的なこともあるでしょうが、自分自身と親のこれからを色々考えてしまいました。
年老いていく親とともに、子供の方は成長しなければいけないのに、私はどうなのかなと。
うちの両親は余り昔のことは話しませんが、よその家族はどうなのかなと。

波乱万丈の人生のようでもありながら、この主人公の父親は幸せだったと思えました。2つ目の家族とある意味幸せに過ごし、1つ目の家族のことも心にかけながら、別のかつての恋人に病床から会いに行きという人生。たくさんの人に愛情を注いで、同時に愛された人だったのだろうなと。そのあたりの心の機微の描写のうまさはいつもの通りです。

父親が書簡をやり取りする女性歌人の、心のこもった思いやりあふれる、人柄のにじみでた手紙が私の心にもあたたかく残りました。そんな言葉をつづるのは、私にはまだまだ無理かも知れません。

なお、闘病治療のなかで胃ろう(胃に直接穴をあけて栄養補給することです)についても触れられていました。最近はネットのトップニュースにもあげられていて、反対意見が増えているようです。どうなっていくのかなと思います。
食べること、話すこと、人と関わってコミュニケーションすること、は人間の存在そのものなのだなと、改めて深く思いました。淡々とした語り口でありながら、心に沁みる小説でした。

本作について作者ご自身が語っておられるページのリンクです。
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/648?page=4

他に借りた本も面白かったです。

「大阪今昔散歩」はカラー写真も多く、よく歩く大阪の街並みの歴史がわかりやすく興味深く知れます。
奥田英朗の「邪魔」も迷うことなく面白かったです。

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