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「帝国のベッドルーム」ブレット・イーストン・エリス [本]

1985年。バブルの時代。
当時大学生だった作者のデビュー作でべストセラーになった「レス・ザン・ゼロ」の25年後の続編です。虚無的な世代を指すゼロ・ジェネレーションという言葉があったように思うのですが、この本のタイトルから来たのか、先にあった言葉なのか、よくわかりません。
当時アメリカで、ちょっと新しい小説を書く作家たちが続いて出てきて、エリスを含め、ロスト・ジェネレーションと呼ばれていたようです。他にジェネレーションXという言葉も。

レス・ザン・ゼロは映画にもなり、劇場に観にいきました。ロスアンジェルスで暮らす裕福で退廃的な若者たちの刹那的な日常を描いた作品です。主人公のクレイの友達、ドラッグ中毒の友達ジュリアンを演じた若いロバート・ダウニー・Jr.の演技が印象的で、テーマに使われたバングルズのメロディもすぐに浮かびます。作者はこの映画に批判的なようですし、一見軽いB級映画の印象を受けますが、深い哀しみの中にいる若いクレイとその彼女のブレアの姿が切なく、記憶に残る映画です。

ただ、映画は覚えていても、25年も前なので、小説の前作は記憶の片隅に追いやられていました。読み始めて、まずジュリアンが生きていたことに驚き。

今は脚本家になり、ニューヨークからロスアンジェルスに帰還した主人公クレイは、恐らく40代後半の設定。クレイには作者の姿も反映されているようです。周りには、ジュリアンの他にも元彼女のブレア、何を職業にしているのかわからない怪しげなリップの25年後の姿も。

クレイと新たな登場人物の女優志望のレインとの関係を軸に、業界の周辺の人々に起こる謎の殺人・失踪事件を絡め、物語は一見現代のスリラーの様相を呈しています。けれど、描かれているのは、ドラッグ、セックス。前と同じく現代の雰囲気。気分。登場はしないのに、何度も意味深に語られる過去の女性。幽霊まで出てきます。

ただ、変わってしまったのは、クレイ自身です。延々と続く独り語りの現実と妄想の線引きが曖昧で、どこまでが実際に起こったことなのか、クレイの妄想なのか、読む進むうちに、判別が出来なくなっていきます。前作ではまっとうな人間として描かれていたと思ったのですが、25年経っての変容振りに、軽いショックを受けました。

謎が解けるわけではなく、謎が謎を呼び、何が解決するでもなく、の結末は何を意味するのでしょうか。ただ、変わらないのはブレアとクレイの関係なのかという気もします。

ただただクレイの胸の内が延々と語られるだけで、全く中身がないような、けれど、どんな解釈も出来そうな小説です。拝金主義、暴力、人種問題、極端な格差社会、資本主義の終焉等々、現代批判。

前作のキャストそのままでの映画化も一時期話題になっていたようです。映画化されたらやはり観てしまうと思います。25年後ではなく、その間も埋めて欲しいという思いも。
クレイは他の小説にもちらっと顔を出してはいましたが、主人公達はこれまでどんな人生を過ごしてきたのでしょうか。

25年前と現代。自分を振り返っても、あっという間のようで、大きく変わったのかよくわかりませんが、インターネットによる新しい社会が構築された時代だったとは思います。それに、今は小説を手にとって読む人がどれだけいるのだろうかとも思います。

小説を余り読まない方は苦労する作品かも知れませんが、不穏な空気を味わいたい方にはぴったりの小説です。


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